はじめに
数強塾グループの国語専門塾、日本国語塾TOPの藤原進之介です。講師の翔先生と一緒に解説します!
大学入試・高校入試の古文において、近世の随筆は「なんとなく読めそうで、実は得点しにくい」分野の代表格です。特に「折たく柴の記」(新井白石)と「玉勝間」(本居宣長)は、センター試験から共通テストへの移行後も頻出であり、難関大の二次試験でも繰り返し出題されています。
「平安の物語は習ったけど、江戸時代の文章って何が違うの?」「随筆ってエッセイみたいなものでしょ?」と軽く考えて失点してしまう受験生が毎年後を絶ちません。近世随筆には、近世固有の語彙・文体・思想背景があり、それを知らずに読むと根本的な読み違いが生じます。
この記事では、「折たく柴の記」と「玉勝間」を中心に、近世随筆の読み方・入試頻出ポイント・得点に直結する実践テクニックを徹底解説します。読み終えた後には「近世随筆は得意分野だ」と自信をもって言えるようになることを目標に、具体例を交えながら丁寧に説明していきます。
核心情報:近世随筆とは何か?なぜ入試に出るのか
「随筆」というジャンルの特性を理解する
随筆とは、作者が見聞きしたこと・感じたことを自由に書き記す文学形式です。日本文学における三大随筆として「枕草子」「徒然草」「方丈記」が挙げられますが、江戸時代(近世)にも数多くの優れた随筆が書かれました。
近世随筆が入試に頻出する理由は主に三つあります。
- 文章量が適切:随筆は短い章立てで書かれることが多く、入試の出題文としてまとまりやすい。
- 論述性が高い:作者の主張・意見が明確に述べられており、読解問題・記述問題の素材として適している。
- 思想史・文化史との連動:近世随筆には儒学・国学・蘭学などの思想的背景があり、総合的な教養を問いやすい。
「折たく柴の記」の基本情報
「折たく柴の記(おりたくしばのき)」は、江戸中期の儒学者・政治家である新井白石(1657〜1725)が書いた自伝的随筆です。宝永7年(1710)頃から書き始められ、全三巻で構成されています。
タイトルの「折たく柴」とは、炉にくべる薪(柴)を折る音、つまり老人が炉辺で柴を折りながら語る昔話のイメージに由来します。子孫のために自分の生涯と見聞を書き留めた、という姿勢が全編に貫かれています。
白石は、6代・7代将軍(徳川家宣・家継)の侍講(じこう=ブレーン・教師役)を務め、「正徳の治」と呼ばれる政治改革を主導した人物です。そのため「折たく柴の記」には、政治的事件・人間観察・儒学的道徳観が随所に織り込まれています。
「玉勝間」の基本情報
「玉勝間(たまかつま)」は、江戸後期の国学者・本居宣長(1730〜1801)が書いた随筆集です。全14巻、文化2年(1805)の刊行(宣長没後)で、読書・学問・言語・日本文化など多岐にわたるテーマについて宣長の所見が述べられています。
宣長は「古事記伝」で知られる国学の大成者。「玉勝間」には、彼の国学的思想・古典への愛情・外来思想(漢意=からごころ)への批判が色濃く反映されています。「もののあはれ」論や「やまとごころ」の主張を理解することが、読解の核心です。
具体的な方法:近世随筆の読み方と入試対策
①文体の特徴を把握する──近世語と古典語の混在
近世随筆の最大の特徴は、古典文語と近世口語・漢文訓読体が混在する点にあります。平安文学の文体を基本に学んできた受験生が戸惑うのは、まさにこの点です。
具体例として「玉勝間」の冒頭近くにある一節を見てみましょう(現代語訳付き)。
「師の説なりとも、なほ証なきことは、信ぜざるを、学問の正直とはいふべし。」
(現代語訳:師匠の説であっても、やはり根拠のないことは信じないのを、学問における正直さというべきだ。)
この文では「なりとも」(逆接の仮定)「なほ」(やはり)「べし」(〜すべきだ・〜と言える)といった古典文法が自然に使われています。一方で、文全体のリズムは漢文訓読の影響を受けており、簡潔で論理的な構造をしています。
対策ポイント:近世随筆を読む際は「平安文法の基礎+漢文訓読体の感覚」の両方を意識しましょう。特に「べし」「まじ」「けり」「なり」などの助動詞の識別は必須です。
②思想的背景を押さえる──儒学と国学の対比
「折たく柴の記」は儒学(朱子学)の価値観に基づいて書かれています。忠義・礼節・自己修養といったテーマが頻出し、作中の人物評価も儒学的道徳観によって行われます。
一方、「玉勝間」は国学の立場から書かれており、「漢意(からごころ)」=中国的な理屈・道徳観念を批判し、日本固有の感情・感性(「やまとごころ」「もののあはれ」)を大切にすることを主張します。
入試でよく問われる「玉勝間」の頻出テーマ:
- 「師の説を盲信するな」──学問における独立した精神の重要性
- 「知らないことは知らないと言え」──誠実な学問態度
- 「漢籍よりも日本の古典を尊重すべし」──国学的立場の主張
- 「古語・古典の正確な解釈が国学の命」──文献学的態度
翔先生からのコメント:「試験問題で『筆者はなぜこのように主張しているか』と問われたとき、単に本文を言い換えるだけでなく、儒学的・国学的価値観という背景を踏まえて答えると、採点者に深い理解が伝わり加点につながります。」
③頻出語彙・表現を完全習得する
近世随筆特有の重要語彙をリスト化しておきます。これらは入試本番で必ず役立ちます。
| 語彙 | 意味・用法 | 出典例 |
|---|---|---|
| からごころ(漢意) | 中国的な思想・価値観(宣長は批判的に使用) | 玉勝間 |
| やまとごころ | 日本固有の精神・感性 | 玉勝間 |
| もののあはれ | 物事に触れて感じる深い感動・情感 | 玉勝間・源氏物語玉の小櫛 |
| 侍講(じこう) | 将軍・貴人に学問を教える職 | 折たく柴の記 |
| 証(しょう) | 根拠・証拠 | 玉勝間 |
| おろかなり | 愚かだ・粗末だ(近世では「不十分だ」の意でも使われる) | 近世随筆全般 |
| いみじ | 非常に〜・すばらしい(文脈によって正負両方) | 近世随筆全般 |
④問題形式別の解法を身につける
【現代語訳問題】
近世随筆の現代語訳で失点しやすいのは、助動詞「べし」の訳し分けと二重否定の処理です。
例:「信ぜざるを正直とはいふべし」
→「べし」は文脈上「推量」ではなく「当然・適当」の意味。「〜というべきだ」と訳す。
【内容説明・理由説明問題】
「なぜ筆者はこのように述べているか」という問いには、①本文中の根拠を引用、②思想的背景を補足、③筆者の主張との関連をまとめるという三段構えで記述しましょう。
【主題・要旨把握問題】
近世随筆は章ごとに独立したテーマを持ちます。問題文の範囲がどのテーマを扱っているかを冒頭で素早く判断することが重要です。「玉勝間」では「学問論」「言語論」「感情論」の三系統を意識して読みましょう。
藤原&翔先生の実践アドバイス
藤原進之介より:「文脈の地図」を作れ
近世随筆の入試問題を解く際に私が受験生に必ず伝えるのは、「文脈の地図を頭の中に作りながら読む」ということです。
「折たく柴の記」では、新井白石が自分の人生を振り返りながら語っています。語り手は「老境に達した白石」であり、若い頃の自分・師匠・同僚・主君などが登場します。この誰が誰について何を語っているかという人物関係の地図を最初に整理することで、指示語・省略された主語を正確に補えるようになります。
具体的には:
① 初読で登場人物に◯をつける
② 各段落の話題(何について述べているか)を欄外にメモ
③ 筆者の評価(プラス・マイナス)に印をつける
この三ステップを習慣化するだけで、読解スピードと正答率が劇的に上がります。
翔先生より:「玉勝間」は宣長の「推し活」と思え
「玉勝間」を難しく感じる生徒に私がよく言うのは、「これは宣長が日本の古典・日本語・日本文化への愛を語る、熱烈な推し活日記だ」ということです(笑)。
宣長は「古事記」や「源氏物語」が大好きで、「漢籍ばかり読んでいる学者たちは本当のことがわかっていない」と本気で思っています。その情熱・愛着・批判的精神を感じながら読むと、文章の意図が自然と見えてきます。
入試でよく問われる「玉勝間」の章:
・「師の説」(師の説を盲信するな)
・「聞かぬ」(知らないことを知らないと言う勇気)
・「かな文字」(仮名遣いの正確さについて)
・「ふることどもをしのぶ」(古の文化への思慕)
これらの章は短くて読みやすく、宣長の主張が明確なので、まずここから読み込んで「宣長の思考パターン」を身体にしみこませましょう。
よくある失敗と解決策
失敗①:「随筆だから感想文を読むようなつもりで読む」
問題:近世随筆、特に「玉勝間」は論述性が高く、筆者が明確な主張を論理的に展開しています。「なんとなく読む」「雰囲気で内容を把握する」という読み方では、設問の正解にたどり着けません。
解決策:随筆であっても「論説文を読む姿勢」で読む。筆者の主張は何か・その根拠は何か・どんな結論を述べているかを常に意識してください。
失敗②:「江戸時代の文章だから現代語に近いだろう」と油断する
問題:近世の文章は確かに平安文学より現代語に近い面もありますが、助動詞・助詞の用法・語彙の意味は依然として古典文法に従っています。「おろかなり」を「愚かだ」とだけ訳す・「べし」を全て「〜だろう」と訳すなどの誤訳が頻発します。
解決策:文語文法の復習を怠らない。特に「べし・まじ・なり・たり・けり・き」の識別と訳し分けは完全に習得しておく。
失敗③:「思想的背景を知らないまま本文だけ読む」
問題:「漢意(からごころ)を去れ」という宣長の主張を、ただ「中国の文化を嫌いだと言っている」と表面的に理解するだけでは、深い設問に答えられません。国学の立場から日本文化の独自性を守ろうとした宣長の意図を理解してこそ、正確な読解ができます。
解決策:近世随筆を学ぶ前に、儒学(朱子学・陽明学)と国学の基礎知識を整理しておく。教科書の文化史のページを必ず確認すること。
失敗④:漢字・語句の意味を「なんとなく」で済ませる
問題:「侍講」「正直」「証」「師説」など、現代語と形は同じでも意味が異なる語(古今異義語)が近世随筆には多数存在します。
解決策:本文を読みながら「この語は現代語と同じ意味で使われているか?」と常に疑う習慣を持つ。特に「正直」「奇特」「おろか」「いみじ」などは要注意。
今日からできるアクション
近世随筆の実力を短期間で上げるために、今日からすぐ始められる具体的な行動をまとめます。
-
「玉勝間」の「師の説」の章を音読する(10分)
短い章なので取り組みやすい。「なりとも」「なほ」「べし」などの文法事項を意識しながら声に出して読むことで、近世文語のリズムが体に入ります。 -
新井白石・本居宣長のプロフィールをノート1ページにまとめる(15分)
時代・職業・代表作・思想的立場・主要な主張を整理する。これが「文脈の地図」の土台になります。 -
頻出語彙リストを単語カード化する(20分)
上記の語彙表を参考に、近世随筆特有の語彙を単語カードに書き出す。毎日5枚ずつ確認する習慣をつける。 -
過去問を1題解いて「文脈の地図作り」を実践する(30〜45分)
登場人物・話題・筆者評価の三点を欄外にメモしながら問題を解く。解いた後は必ず解説と照らし合わせて、どの知識が不足していたかを確認する。 -
儒学・国学の基礎知識を教科書で確認する(15分)
日本史・倫理の教科書でも構いません。「正徳の治」「国学の四大人」などのキーワードを確認する。
この5つを1週間続けるだけで、近世随筆に対する苦手意識は大きく軽減されます。「折たく柴の記」「玉勝間」が出題されたときに「ラッキー、得意分野だ」と感じられるようになることが目標です。
まとめ・日本国語塾トップについて
今回は、江戸時代の近世随筆「折たく柴の記」(新井白石)と「玉勝間」(本居宣長)を中心に、近世随筆の読み方と入試対策を詳しく解説しました。
ポイントを改めて整理します:
- 近世随筆は「古典文語+漢文訓読体の混在」という文体的特徴を持つ
- 「折たく柴の記」は儒学的価値観、「玉勝間」は国学的思想を背景に持つ
- 思想的背景を知ることが、深い読解と高得点への近道
- 頻出語彙・文法事項は繰り返しインプットして確実に定着させる
- 「文脈の地図」を作りながら読む習慣が、読解力と解答精度を劇的に高める
- 論説的な随筆は「主張・根拠・結論」を意識して読む
近世随筆は、正しい知識と読み方を身につければ必ず得点源になります。今回解説した方法を実践し、「折たく柴の記」「玉勝間」を自分の武器にしてください。藤原進之介と翔先生は、皆さんの合格を全力で応援しています!
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