はじめに
数強塾グループの国語専門塾、日本国語塾TOPの藤原進之介です。講師の翔先生と一緒に解説します!
翔:今日は「東大古文は敬語で読む」というテーマでお話しします。東大古文の記述問題を解いていて、「本文はだいたい訳せるのに、誰が誰に何をしているのかがどうしても掴めない」という相談を本当によく受けます。
藤原:そうですね。古文が苦手な生徒さんの多くは、単語や文法は頑張って覚えているのに、主語特定でつまずいています。実は東大古文における主語特定のカギは、単語力でも文法知識の暗記量でもなく「敬語」なんです。敬語表現がどの人物に向けられているかを丁寧に追いかけるだけで、驚くほど主語がクリアに見えてきます。今回は、尊敬語・謙譲語・丁寧語の三分類の基礎から、二方向に敬意が向く「二方向敬語」、そして地の文と会話文での読み方の違いまで、実践的な手順として整理していきます。
出題の全体像
東大古文は、記述式の設問が中心で、傍線部の現代語訳や説明を求められる形式が近年は続いています。試験時間や配点、大問構成については年度によって変更される可能性がありますので、必ず最新の募集要項・入試要項でご確認ください。
形式面の細部は変動しても、変わらないのは「本文中の人物関係を正確に把握できているか」が得点力を大きく左右するという点です。東大古文の本文は主語が省略されることが非常に多く、しかも登場人物が複数いる場面が頻出します。ここで単語の意味だけを追ってしまうと、「誰が」「誰に」その動作をしているのかを取り違え、傍線部の現代語訳や説明問題で致命的な誤読をしてしまいます。
この誤読を防ぐ最も確実な武器が敬語です。古文の敬語は、単なる丁寧さの表現ではなく、「誰が誰を敬っているか」を示す文法的なサインです。つまり敬語は、省略された主語や目的語を復元するための「地図」の役割を果たしているのです。東大古文で高得点を狙うなら、まず敬語を正確に分類し、その敬意の方向を読み取る力を身につける必要があります。
設問タイプ別の解き方
①尊敬語・謙譲語・丁寧語の三分類を体に染み込ませる
まず基本の確認です。敬語には次の三種類があります。
- 尊敬語:動作をする人(主語)を敬う表現。「〜せたまふ」「おほす」「のたまふ」など。
- 謙譲語:動作を受ける人(客体・相手)を敬う表現。「〜たてまつる」「まうす」「参る」など。
- 丁寧語:話し手・書き手が聞き手・読み手を敬う表現。「はべり」「さぶらふ」など。
ここで大切なのは、単に「この語は尊敬語だ」と暗記するのではなく、「誰に対する敬意なのか」を常にセットで考える癖をつけることです。次の自作例文で確認してみましょう(大学入試本文からの引用ではなく、解説のために作成したオリジナルの文です)。
例文①:「大納言、御文を書かせたまひて、女房にたてまつらせたまふ。」
この文では「せたまふ」が尊敬語なので、動作主である「大納言」への敬意が示されています。一方「たてまつる」は謙譲語なので、動作の受け手である「女房」への敬意が示されているとも読めますが、実際には誰から誰への敬意かは文脈と組み合わせて判断する必要があります。このように、敬語一つひとつについて「誰への敬意か」を意識して読む訓練が、東大古文の主語特定の第一歩です。
②二方向敬語を見抜く
東大古文で受験生を悩ませるのが、一つの動詞に尊敬語と謙譲語が同時に含まれる「二方向敬語」です。たとえば「せたまふ」に「たてまつる」が組み合わさった二重敬語や、謙譲+尊敬の組み合わせなどがこれにあたります。
自作例文②:「中納言、御文を書かせたまひて、后の宮にたてまつりたまふ。」
この文をよく見ると、「書かせたまふ」で動作主(中納言)への尊敬、「たてまつる」で動作の受け手(后の宮)への謙譲、さらに「たてまつりたまふ」全体としても敬意が重なっている構造になっています。つまりこの一文だけで、「中納言が主語である」ことと「后の宮が動作の相手である」ことの両方が敬語だけから読み取れるのです。単語の意味を訳すだけでは見えてこない人物関係が、敬語の方向性を追うことで浮かび上がってきます。二方向敬語が出てきたら、「誰への敬意か」を必ず二つに分けてメモする習慣をつけましょう。
③地の文と会話文での敬語の使い分けを区別する
東大古文の誤読で非常に多いのが、地の文の敬語と会話文の敬語を同じ基準で読んでしまうことです。地の文の敬語は「作者(語り手)から登場人物への敬意」を表しますが、会話文の敬語は「話している登場人物から、会話の中に出てくる別の人物への敬意」を表します。この違いを混同すると、主語をまるごと取り違えてしまいます。
自作例文③(地の文):「帝、大臣を召して、御物語したまふ。」
この場合「したまふ」は語り手から帝への敬意であり、主語は帝だと判断できます。
自作例文④(会話文):「(女房のせりふとして)『殿のおほせられしことを、姫君に申しあげはべりぬ。』」
この会話文では、「おほせらる」は話者(女房)から「殿」への敬意、「申しあげ」は話者から「姫君」への敬意、「はべり」は話者から聞き手への丁寧語です。つまり会話文の中では、敬語の基準点が「語り手」ではなく「発言している人物」に移ることを必ず意識してください。東大古文では会話文と地の文が入り混じって展開することが多いため、「今、誰が敬意の発信源になっているか」を常に確認する作業が欠かせません。
④主語特定の具体手順
実際に東大古文の本文を読むときは、次の手順を機械的に繰り返すことをおすすめします。
- まず地の文か会話文かを判定する。
- 敬語(尊敬・謙譲・丁寧)を一つずつ丸で囲むかチェックする。
- 尊敬語なら「動作主は誰か」、謙譲語なら「動作の相手・客体は誰か」を本文の余白に書き込む。
- 二方向敬語の場合は、両方の敬意の向きを分けて記録する。
- 敬語のレベル(誰から誰への敬意か)が登場人物の身分関係と矛盾していないかを確認する。
この手順を毎回丁寧に踏むことで、主語が省略された文でも、敬語の情報だけから「動作主は誰か」を高い精度で特定できるようになります。東大古文における記述問題は、この主語特定が正確にできて初めて、正しい現代語訳・説明へとつながっていきます。
藤原&翔先生の実践アドバイス
翔:僕が指導していて感じるのは、敬語を「暗記対象」として捉えている受験生ほど、本番で主語を取り違えるということです。「せたまふ=尊敬」と丸暗記するだけでは、実戦では使えません。
藤原:その通りです。敬語は暗記ではなく「関係性を読み解くツール」として使う意識が必要です。私がいつも生徒に伝えているのは、「敬語が出てきたら、必ずその敬意の矢印を頭の中、あるいは余白に書く」ということ。矢印の起点(敬う側)と終点(敬われる側)をセットで確認する習慣が、東大古文の主語特定を安定させます。
翔:加えて、身分関係の把握も大切ですね。誰が天皇で誰が臣下か、誰が親で誰が子か、という人物関係を本文の冒頭からメモしておくと、敬語の向きと矛盾がないかをチェックできます。
藤原:はい。敬語と身分関係はセットで機能します。片方だけを見ていると、誤読の罠にはまりやすいので注意してください。
よくある失敗と解決策
まず一つ目の失敗は、「せたまふ」のような頻出の敬語表現を見た瞬間に、直前の名詞を機械的に主語だと決めつけてしまうことです。日本語は主語が省略されがちなので、直前に出てくる名詞が必ずしも主語とは限りません。解決策としては、敬語の種類(尊敬か謙譲か)を必ず確認し、その敬語が「誰の動作」を表しているのかを文脈全体から判断する癖をつけることです。
二つ目の失敗は、会話文の中の敬語を地の文の基準で読んでしまうことです。会話文では敬意の基準点が発言者に移ることを忘れると、話者と登場人物の関係を取り違えます。解決策は、鉤括弧(「」)に入ったら必ず「今、誰がしゃべっているか」を確認し、その人物を敬意の起点として読み直す習慣をつけることです。
三つ目の失敗は、二方向敬語を単純に「二重敬語=強い尊敬」とだけ覚えて、敬意の向きを深く分析しないことです。これでは主語特定に敬語を活かしきれません。解決策としては、二方向敬語が出てきたら必ず「尊敬部分は誰への敬意か」「謙譲部分は誰への敬意か」を分けて書き出す訓練を積むことです。
四つ目の失敗は、単語の現代語訳だけに気を取られ、敬語情報を読解のメモに残さないことです。東大古文のように主語が頻繁に省略される文章では、敬語の分析結果を可視化しないと、後から読み返したときに人物関係を見失います。解決策は、演習の際に必ず本文の余白に敬語の矢印や人物関係図を書き込む習慣を作ることです。
今日からできるアクション
まず今日からできる第一のアクションは、教科書や問題集に出てくる敬語表現を、尊敬・謙譲・丁寧の三分類に仕分けし直すことです。すでに知っている単語でも、改めて「これは誰への敬意を表す語か」という視点で整理し直すと、東大古文の主語特定に直結する感覚が磨かれます。
第二のアクションは、短い古文の一節(自作の練習文でも構いません)を選び、敬語をすべてマーカーで囲み、その矢印(誰から誰への敬意か)を書き込む練習を毎日五分でも続けることです。この作業を継続することで、本番の初見の文章でも敬語から素早く人物関係を読み解けるようになります。
第三のアクションは、地の文と会話文が混在する文章を選び、鉤括弧が変わるたびに敬意の基準点をどう切り替えるべきかを声に出して確認する練習です。声に出すことで、頭の中の切り替えがスムーズになり、誤読のリスクが大きく減ります。
第四のアクションは、過去問演習を行う際に、傍線部の現代語訳や説明を書く前に、必ず「敬語から読み取れる主語・客体」を一言メモしてから答案を作成する習慣をつけることです。この一手間が、東大古文の記述答案の精度を大きく引き上げます。
まとめ・日本国語塾TOPについて
東大古文における読解の核心は、単語や文法の暗記量ではなく、敬語を通じて人物関係と主語を正確に特定する力にあります。尊敬・謙譲・丁寧の三分類を土台に、二方向敬語の矢印を分解し、地の文と会話文で敬意の基準点を切り替える。この手順を何度も繰り返すことで、東大古文特有の主語省略の壁を乗り越え、誤読を防ぐ読解力が確実に身についていきます。今日からの小さな積み重ねが、本番での安定した得点力につながります。
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