はじめに
数強塾グループの国語専門塾、日本国語塾TOPの藤原進之介です。講師の翔先生と一緒に解説します!
藤原:翔先生、古文口語訳シリーズの第2回ですね。前回は基本的な単語と文法事項の確認でしたが、今回のテーマは何でしょう。
翔先生:はい。今回は「主語の補い」と「敬語の敬意の方向」に絞って練習します。古文は主語が省略されることが多いうえ、敬語が入ると「誰が誰を敬っているのか」で読み方が全く変わってしまうんです。
藤原:そこが古文の口語訳で一番差がつくポイントですよね。
翔先生:そうなんです。尊敬語なら「動作をする人(主語)」への敬意、謙譲語なら「動作を受ける人(客体)」への敬意、丁寧語なら「読み手・聞き手」への敬意、という基本の型をしっかり体に入れてから、会話文の中の二重敬語や絶対敬語まで扱っていきます。
藤原:今回の10問を解き終える頃には、「敬語を見た瞬間に敬意の矢印が引ける」状態になっているはずです。では早速いきましょう。
問題(全10問)
第1問
次の文を現代語訳し、二か所の傍線部「給ふ」がそれぞれ誰への敬意を表しているか答えなさい。
「中納言、姫君のもとに文を遣はし給ふ。姫君、これを見て涙ぐみ給ふ。」
※学習用に作成した例文です
第2問
次の文を現代語訳し、「申す」「給へ」の敬意の方向をそれぞれ答えなさい。
「女房、御方に『中納言こそ参り給へ』と申す。」
※学習用に作成した例文です
第3問
次の文を現代語訳し、「侍り」の敬意の方向を答えなさい。
「昔、ある所に、心すぐれたる女房侍りけり。この女房、常に和歌を詠みけり。」
※学習用に作成した例文です
第4問
次の文を現代語訳し、傍線部「聞こえ給ふ」の主語を答えなさい。また、「聞こえ」「給ふ」それぞれの敬意の方向を答えなさい。
「中納言、宮に参りて、御物語聞こえ給ふ。宮、いとうれしと思し給ふ。」
※学習用に作成した例文です
第5問
次の文を現代語訳し、「奉る」の敬意の方向を答えなさい。
「女房、御文を姫君に奉る。」
※学習用に作成した例文です
第6問
次の文を現代語訳し、「のたまふ」の敬意の方向を答えなさい。
「大臣、『今日は花見にまからむ』とのたまふ。」
※学習用に作成した例文です
第7問
次の文を現代語訳し、「奏す」の敬意の方向を答えなさい。また、この語がなぜ「絶対敬語」と呼ばれるのか説明しなさい。
「中納言、帝に事の次第を奏す。」
※学習用に作成した例文です
第8問
次のA・Bそれぞれの文を現代語訳し、「参る」の意味と敬意の方向の違いを説明しなさい。
A「女房、御前に参る。」
B「殿、酒を参る。」
※学習用に作成した例文です
第9問
次の文の( )に入る主語を補い、全体を現代語訳しなさい。また、傍線部「たてまつり給ふ」の敬意の方向を説明しなさい。
「中納言、久しく便りせざりしを思ひ出でて、( )、御方に文をたてまつり給ふ。御方、これを御覧じて、いとあはれと思し召す。」
※学習用に作成した例文です
第10問
次の文を現代語訳し、傍線部「仰せらる」「候ふ」「申す」の敬意の方向をそれぞれ答えなさい。
「帝、中納言を召して、『汝、この事をいかに思ふか』と仰せらる。中納言、『かしこまりて候ふ』と申す。」
※学習用に作成した例文です
解答・解説
第1問の解答と解説
現代語訳:中納言は、姫君のもとに手紙をお送りになる。姫君は、これをご覧になって涙ぐみなさる。
二か所の「給ふ」はどちらも尊敬の補助動詞で、地の文にある敬語なので敬意の主体は作者(語り手)です。一つ目の「給ふ」は「遣はす」という動作をした中納言への敬意、二つ目の「給ふ」は「涙ぐむ」という動作をした姫君への敬意になります。このように同じ「給ふ」でも、直前の動詞の主語が誰かによって敬意の対象が変わる点に注意しましょう。主語が途中で入れ替わる文では、句点ごとに主語を確認する癖をつけることが大切です。
第2問の解答と解説
現代語訳:女房は、御方に「中納言様がいらっしゃった」と申し上げる。
「申す」は謙譲語で、動作をしている女房から、話しかけている相手である御方への敬意を表します。一方、会話文の中の「参り給へ」は、「参る」(謙譲語=行き先の人物への敬意)と「給ふ」(尊敬語=主語である中納言への敬意)が重なった形で、中納言が敬われる相手(御方)に対して参上したことを、女房の視点からへりくだって表現しています。地の文の敬語と会話文の中の敬語を混同しないことが、この問題のポイントです。
第3問の解答と解説
現代語訳:昔、ある所に、心が優れている女房がおりました。この女房は、いつも和歌を詠んだ。
「侍り」は丁寧語で、動作の主体や客体ではなく、読み手・聞き手に対する敬意を表します。物語の書き出しなどでよく使われ、「〜です・〜ます」に相当する丁寧な文末表現です。尊敬語・謙譲語と違い、丁寧語は登場人物同士の上下関係とは無関係なので、「誰から誰へ」を人物関係で考えようとすると混乱します。丁寧語は常に「語り手から読者・聞き手へ」と覚えておきましょう。
第4問の解答と解説
現代語訳:中納言は、宮のもとに参上して、お話し申し上げなさる。宮は、たいそう嬉しいとお思いになる。
「聞こえ給ふ」の主語は中納言です。「聞こえ」は謙譲語で、話をする相手である宮への敬意を表し、「給ふ」は尊敬語で、動作をしている中納言自身への敬意を表します。このように一つの動詞に謙譲語と尊敬語が同時に付く形を、敬意の方向が二つあるという意味で「二方向の敬語」と呼びます。謙譲語は客体(宮)、尊敬語は主体(中納言)と、対象がずれることを必ず押さえてください。
第5問の解答と解説
現代語訳:女房は、お手紙を姫君に差し上げる。
「奉る」は「与ふ」の謙譲語で、物を受け取る側の人物への敬意を表します。ここでは手紙を受け取る姫君への敬意です。「奉る」は文脈によって「食ふ・飲む・着る」の尊敬語として使われることもあるため、意味を一つに決めつけず、前後の文脈から「差し上げる」なのか「召し上がる」なのかを判断する必要があります。今回は「文を〜姫君に」という語順から、受け渡しの謙譲表現だと判断できます。
第6問の解答と解説
現代語訳:大臣は、「今日は花見に参ろう」とおっしゃる。
「のたまふ」は「言ふ」の尊敬語で、地の文にある敬語なので、発言している大臣への敬意を表します。会話文中の「まからむ」は「行く」の謙譲語ですが、これは会話をしている大臣自身が自分の行為をへりくだって述べたものです。地の文の敬語(作者からの敬意)と、会話文中の敬語(話者自身の言葉遣い)は敬意の出どころが異なるので、混同しないよう注意しましょう。
第7問の解答と解説
現代語訳:中納言は、帝に事の次第を申し上げる。
「奏す」は「帝(天皇)に申し上げる」という意味しか持たない謙譲語で、動作の受け手が常に帝であることから、敬意の方向は常に「動作主から帝へ」と決まっています。このように、敬意の対象が特定の人物(天皇・皇后など)に限定される敬語を「絶対敬語」と呼びます。同様の語に「啓す」(皇后・皇太子への謙譲)があります。「奏す」を見たら文脈を確認せずとも帝への敬意だと判断できる点が最大の特徴です。
第8問の解答と解説
現代語訳A:女房は、御前に参上する。
現代語訳B:殿は、酒を召し上がる。
Aの「参る」は「行く」の謙譲語で、行き先である御前(高貴な人のいる場所)への敬意を表します。一方Bの「参る」は「飲む・食ふ」の尊敬語で、動作主である殿への敬意を表します。同じ「参る」でも、目的語や文脈によって謙譲語にも尊敬語にもなる点が要注意です。「参る」の後ろに場所や人物が来れば謙譲語(行く)、飲食物が来れば尊敬語(飲む・食う)になりやすい、という目印を覚えておくと判断が速くなります。
第9問の解答と解説
補うべき主語:中納言
現代語訳:中納言は、長い間便りをしなかったことを思い出して、中納言は、御方に手紙を差し上げなさる。御方は、これをご覧になって、たいそうしみじみとお思いになる。
前文の主語「中納言」が、接続助詞「て」でつながる後続の文でも変わらず主語になっていると判断できます。「たてまつり給ふ」は、「たてまつり」が謙譲語で手紙を受け取る御方への敬意、「給ふ」が尊敬語で動作主である中納言への敬意を表す、二方向の敬語です。古文では主語が変わるのは「を・に・が」などの接続助詞の後が多く、「て」でつながる場合は主語が継続することが多いという目安も覚えておきましょう。
第10問の解答と解説
現代語訳:帝は、中納言をお呼びになって、「お前は、この事をどう思うか」とおっしゃる。中納言は、「畏まっております」と申し上げる。
「仰せらる」は「言ふ」「仰せらる」は「言ふ」の尊敬語で、地の文にある敬語なので、動作主である帝への敬意を表します。会話文中の「候ふ」は丁寧語で、話している中納言から、話しかけている相手である帝への敬意を表します。「申す」は謙譲語で、「言う」という動作を受ける相手、つまり帝への敬意を表します。この一文には尊敬語・丁寧語・謙譲語がすべて登場しますが、共通しているのは「帝」という同一人物に敬意が集まっている点です。地の文の敬語は語り手からの敬意、会話文中の敬語は話者からの敬意という原則を押さえたうえで、それぞれの敬語がどの人物に向かっているかを一つずつ丁寧に確認することが、この問題を正確に解く鍵になります。
藤原&翔先生のワンポイント
藤原:翔先生、10問通してみて、受験生がつまずきやすいポイントはどこでしょうか。
翔先生:大きく二つあります。一つは「敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を見分けたのに、敬意の方向を人物関係と混同してしまう」こと。もう一つは「主語が省略されている文で、直前の主語をそのまま引き継いでよいかどうかの判断」です。
藤原:敬語の種類の見分け方は覚えているのに、そこから先の「誰への敬意か」で止まってしまう生徒が多いですよね。
翔先生:はい。そこで今回のように、まず「尊敬語なら主語(動作主)」「謙譲語なら客体(動作を受ける人)」「丁寧語なら読み手・聞き手」という三つの型を機械的に当てはめてから、文脈で人物名を確定させる、という二段階の手順を習慣にしてほしいです。特に「参る」「奉る」のように尊敬・謙譲の両方の意味を持つ語は、目的語や後続する語との組み合わせで判断する練習を積み重ねることが大切です。
藤原:主語の補いについても、「て」でつながる文は主語が継続しやすく、「を・に・が」の後は主語が変わりやすいという目安を、今回の第9問のような実例で体に染み込ませておくと、本番でも迷わず判断できます。地の文と会話文を切り分けて、それぞれで「誰から誰へ」の敬意なのかを一文ずつ整理する練習を続けていきましょう。
まとめ・日本国語塾TOPについて
今回は「主語の補い」と「敬語の敬意の方向」をテーマに、全10問を通して練習しました。尊敬語・謙譲語・丁寧語それぞれの敬意の向かう先を型として覚え、地の文と会話文で敬意の出どころが変わることを意識するだけで、口語訳の精度は大きく上がります。特に「聞こえ給ふ」「たてまつり給ふ」のような二方向の敬語や、「奏す」のような絶対敬語は入試でも頻出ですので、今回の問題を何度も解き直して確実に定着させてください。次回の第3回もぜひ挑戦してみてください。
日本国語塾TOPは、数強塾グループ代表・藤原進之介が監修する国語専門塾です。
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