はじめに
数強塾グループの国語専門塾、日本国語塾TOPの藤原進之介です。講師の翔先生と一緒に解説します!
藤原:翔先生、評論キーワードシリーズの第2回ですね。今回は「近代」「自己」「他者」「言語」「記号」「自然」といった、評論文の土台になる概念を扱います。
翔先生:そうですね。これらは単独で出てくるだけでなく、必ず「何かと対比される形」で使われるのが特徴です。「近代 vs 前近代」「自己 vs 他者」「自然 vs 人為・文明」というように、対になる概念のセットで覚えると、本文の論理構造が見えやすくなります。
藤原:今回の10問では、言葉の意味を単に暗記するのではなく、「この概念は何と対比されて使われるのか」を意識して解いてもらいたいです。それでは早速、問題に進みましょう。
問題(全10問)
第1問
次の文の空欄に入る最も適切な語を答えよ。
「近代以前の社会では、人間は共同体の一員として、生まれながらに与えられた身分や役割に従って生きていた。それに対して近代社会では、人間は共同体から切り離された個人として、自らの意志で生き方を選択する存在とされる。このような、自律的に思考し行動する個人のあり方を( )という。」
第2問
「他者」という語の説明として最も適切なものを、次のア〜エから一つ選べ。
ア 自分と同じ考えを持つ人物
イ 自分の理解や予測を超えた存在としての、自分以外の人間
ウ 自分の家族や親しい友人
エ 自分が支配し従わせることのできる相手
第3問
言語について述べた次の文の空欄に入る語を答えよ。
「ある事物と、それを指し示す言葉の音や文字との結びつきには、本来必然的な理由がない。犬という動物を『イヌ』と呼ぶのも『ドッグ』と呼ぶのも、社会がそう決めているにすぎない。このような言語の性質を言語の( )という。」
第4問
「記号」の説明として最も適切なものを、次のア〜エから一つ選べ。
ア 自然界にもとから存在する物体そのもの
イ ある意味や内容を指し示すために用いられる、形をもったもの
ウ 人間の感情そのもの
エ 科学的に証明された事実
第5問
次の文の空欄に入る最も適切な語を、後のア〜エから一つ選べ。
「評論文において『自然』は、人間の手が加わっていない状態を指す語として、しばしば『( )』と対比的に用いられる。都市や道路、制度や言語のように、人間がつくり出したものやその働きを指すこの語である。」
ア 本能 イ 人為 ウ 感覚 エ 直感
第6問
次の説明のうち、「主体」の説明として最も適切なものを、ア〜エから一つ選べ。
ア 他者から見られ、働きかけられる対象となるもの
イ 自ら考え、判断し、行動する存在
ウ 単なる物体や道具
エ 感情を持たない機械的な存在
第7問
次の文章を読み、後の問いに答えよ。
「近代以前の村落共同体では、個人は共同体の秩序に従うことでアイデンティティを保っていた。しかし近代化が進むと、共同体の結びつきは弱まり、人は自らの内面に基づいて自己を確立せざるを得なくなった。」
問 この文章における「共同体」と対比されている概念として最も適切なものを、次のア〜エから一つ選べ。
ア 国家 イ 個人 ウ 自然 エ 伝統
第8問
言語が単なる思考の伝達手段ではなく、人間の思考の枠組みそのものを規定しているという考え方を何と呼ぶか。最も適切なものを、次のア〜エから一つ選べ。
ア 言語相対論(言語決定論)
イ 言語装飾論
ウ 言語模倣論
エ 言語廃止論
第9問
評論文における「他者」の扱いについて、しばしば次のような指摘がなされる。「他者を自分と同じ枠組みで理解しようとすると、他者の独自性を消してしまう危険がある」。この考え方に最も近いものを、次のア〜エから一つ選べ。
ア 他者は最終的には自分と完全に理解し合える存在である
イ 他者は自分の枠組みに収まらない異質性を持つ存在である
ウ 他者は存在しないものとして無視すべきである
エ 他者は常に自分より劣った存在である
第10問
近代化の特徴として一般に指摘される事柄として、適切でないものを次のア〜エから一つ選べ。
ア 科学技術による自然の合理的な支配・利用
イ 個人の自由と権利の重視
ウ 身分制度による固定された生き方の強制
エ 産業化・都市化の進展
解答・解説
第1問の解答と解説
解答:近代的自我(近代的自己)
近代以前は共同体の秩序や身分によって個人の生き方が規定されていましたが、近代化に伴い、個人は共同体から独立し、自らの理性や意志にもとづいて生き方を選ぶ存在とされるようになりました。この「自律的に思考し行動する個人」のあり方を近代的自我と呼びます。評論文では「近代」というキーワードとほぼ必ずセットで登場する語なので、この対比構造(共同体に従属する存在 vs 自律的な個人)ごと覚えておくことが重要です。単に「自我」と答えると近代性の要素が抜けてしまうため、「近代的」という修飾語まで含めて理解しておきましょう。
第2問の解答と解説
解答:イ
評論文における「他者」は、単に「自分以外の人」という意味だけでなく、「自分の理解や支配の枠組みに収まらない存在」というニュアンスを強く持つ語です。アやウのように「自分と似ている・親しい存在」を指す場合は、むしろ「他者」とは呼ばれにくく、こうした存在は「身近な人」「近しい人」と表現されることが多い点に注意しましょう。エのように支配できる相手も、他者性が失われた対象として扱われます。他者とは、自分にとって完全には理解しきれない「異質さ」を持つ存在だと押さえておくと、本文の論旨がつかみやすくなります。
第3問の解答と解説
解答:恣意性
言語における「恣意性」とは、事物とそれを表す言葉(音や文字)との結びつきに、本来的・必然的な理由がないという性質を指します。犬を「イヌ」と呼ぶのは日本語社会の約束にすぎず、別の言葉で呼んでも本質的には問題ないという点がポイントです。この概念は、言語が現実をそのまま写し取る道具ではなく、社会的な約束(コード)によって成り立っていることを示すために評論文でよく使われます。「必然性がない」というキーワードが本文にあれば、恣意性という語が近くにある可能性が高いと考えておきましょう。
第4問の解答と解説
解答:イ
「記号」とは、それ自体が意味を持つのではなく、ある意味や内容を指し示すための形式・媒体として機能するものを指します。言葉、標識、地図の記号などはすべてこの意味での記号です。アのように「自然界にもとから存在する物体そのもの」は記号ではなく、それを何らかの意味として読み取ったときに初めて記号として機能します。エの「科学的に証明された事実」と記号を混同する誤答も見られますが、記号の本質はあくまで「意味を指し示す働き」にある点を確認しておきましょう。
第5問の解答と解説
解答:イ(人為)
「自然」と対比される代表的な語が「人為」です。自然が人間の手の加わっていない状態を指すのに対し、人為は人間が意図的につくり出したものやその働きを指します。評論文では「自然/人為」の対比を土台にして、「自然/文化」「自然/文明」といった発展的な対比も展開されることが多いため、まずは基本形である「自然と人為」の対をしっかり押さえておくことが大切です。ア「本能」やウ「感覚」は人間の内側にある性質であり、自然と対比される社会的なつくりものとは方向性が異なる点に注意しましょう。
第6問の解答と解説
解答:イ
「主体」とは、自ら考え、判断し、行動する存在のことを指します。これに対して「客体」は、主体から見られ、働きかけられる対象となる存在を指し、両者はワンセットで対比的に使われる語です。アはむしろ「客体」の説明になっている点に注意しましょう。評論文では「近代において人間は自然を客体として支配する主体になった」というように、近代・自然というほかのキーワードと組み合わさって出てくることが多いため、単語だけでなく文脈のなかでの結びつきも意識して覚えておくと得点につながります。
第7問の解答と解説
解答:イ
本文では「共同体に従っていた個人」が、近代化によって「共同体の結びつきが弱まり、自らの内面に基づいて自己を確立する」存在に変化したことが述べられています。つまりここでの対比は「共同体に埋め込まれた個人」と「共同体から独立した個人」であり、対比されているのは共同体そのものではなく、共同体という枠組みのなかでの個人のあり方の変化です。選択肢の中で「個人」がその対概念として最も適切であり、ウの「自然」やエの「伝統」は本文中で直接対比されている概念ではないため誤りです。読解問題では、対比されている語を本文中の表現から正確に拾う練習が重要です。
第8問の解答と解説
解答:ア(言語相対論・言語決定論)
言語が思考の単なる伝達手段ではなく、人間がどのように世界を認識し、思考するかという枠組みそのものを規定しているという考え方を、言語相対論(または言語決定論)と呼びます。評論文では「言語によって世界の切り分け方が異なる」「言葉がなければその概念自体を認識できない」といった説明とともに紹介されることが多い考え方です。イ・ウ・エの選択肢はいずれも実際に用いられる用語ではなく、消去法でも解答を絞り込むことができます。用語の名称だけでなく、その内容(言語が思考を規定する)まで一緒に押さえておきましょう。
第9問の解答と解説
解答:イ
評論文における他者論の基本的な考え方は、「他者を自分の理解の枠組みに完全に収めてしまうと、他者の異質性・独自性を消してしまう」という点にあります。つまり他者とは、自分にとって理解しきれない部分を残した存在であるという視点です。アのように「完全に理解し合える」とすると、他者の他者性が失われてしまい、この考え方と矛盾します。ウ・エは他者を軽視・否定する立場であり、評論文で扱われる他者論とは方向性が異なります。「他者=異質性を持つ存在」という定義を軸に、選択肢を絞り込む練習をしておきましょう。
第10問の解答と解説
解答:ウ
近代化とは、身分制度によって生き方が固定されていた前近代的な社会から、個人が自由な意志で生き方を選択できる社会への変化を指します。したがって「身分制度による固定された生き方の強制」は、むしろ近代化によって解体されていく前近代の特徴であり、近代化の特徴としては不適切です。ア・イ・エはいずれも近代化に伴って一般的に進展する事柄として評論文でもよく説明される内容です。「近代化=前近代からの解放・変化」という方向性を正しく理解していれば、ウが逆の内容であることに気づけます。
藤原&翔先生のワンポイント
翔先生:今回のキーワードはどれも「単独の意味」だけでなく「対比構造」で理解することが大切でしたね。
藤原:その通りです。評論文の読解でよくある失敗は、キーワードの意味を単語カードのように暗記して、本文中でその語がどの語と対比されているかを見落としてしまうことです。「自己/他者」「自然/人為」「主体/客体」「近代/前近代」というように、対になる語をセットでノートに書き出しておくと、初見の評論文でも論理構造をすばやくつかめるようになります。
翔先生:また、選択肢問題では「一見正しそうだが、対比の方向が逆になっている」誤答(今回の第10問のような形)が頻出です。選んだ選択肢が、本文の対比構造のどちら側に当たるのかを、必ず確認する習慣をつけましょう。
まとめ・日本国語塾TOPについて
今回は「近代・自己・他者・言語・記号・自然」といった評論頻出の概念について、定義と対比を軸に10問の一問一答形式で学習しました。評論キーワードは、意味を単独で覚えるだけでは本文の理解につながりません。今回のように「何と対比されているか」まで含めて理解することで、初見の評論文でも論理の骨格をすばやく把握できる力がついていきます。次回もぜひ挑戦してみてください。
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