数強塾グループの国語専門塾、日本国語塾TOPの藤原進之介です。講師の翔先生と一緒に解説します!
はじめに
藤原:翔先生、傍線部説明シリーズも第3回になりましたね。今回はどんな力を鍛えていきましょうか。
翔先生:今回は「常識」というテーマの評論文を一つ用意しました。一本の文章の中に傍線を10か所引いて、指示語の指す内容、比喩表現の言い換え、理由説明を全部練習できるようにしています。
藤原:一つの文章を通して読むことで、筆者の論理の流れを追いながら傍線部を処理する練習になりますね。
翔先生:そうです。傍線部単体だけを見て答えを探すのではなく、「前の段落で何が言われていたか」「次にどう展開するか」まで見て初めて正解にたどりつく設計にしてあります。記述の際は、必ず本文中の言葉を根拠にして、指示語を具体的な内容に置き換える練習をしてください。
藤原:それでは、まず本文を読んで、10問すべてに挑戦してみましょう。
問題(全10問)
次の文章を読んで、後の各問いに答えなさい。
私たちは日常生活の中で、しばしば「それは常識でしょう」という言葉を口にする。しかし、この「常識」という言葉が指し示す内容は、実のところきわめて曖昧である。ある集団の内部では自明とされる規範や知識が、別の集団に足を踏み入れた瞬間に、まったく通用しないものへと変わってしまうことがある。①常識とは、特定の共同体のなかでのみ有効な、いわば「内輪の約束事」にすぎないのである。
たとえば、ある職場では時間に一分の遅刻も許されないことが常識とされる一方、別の職場では多少の遅刻は「よくあること」として大目に見られる。どちらの職場にも、それぞれの常識を支える歴史的経緯や実利的な理由が存在する。②しかし当事者たちは、自分たちの常識がなぜそのように成立したのかを、ふだんはほとんど意識していない。常識とは、その内部にいる者にとっては、あまりに自然なものとして受け止められているため、あらためて根拠を問われることがないのである。
この事実は、私たちに一つの重要な教訓を与えてくれる。自分の常識を絶対的な真理であるかのように扱い、他者に押しつけようとする態度は、③しばしば無意識のうちに他者を排除する暴力性を帯びてしまう。異なる共同体から来た人間に対して「そんなことも知らないのか」と冷ややかな視線を向けるとき、私たちは自分の常識が普遍的なものであるという思い込みに陥っている。
④むしろ必要なのは、自分が当然と思っていることの背後に、特定の集団や時代に固有の事情が隠れているのではないかと、いったん立ち止まって問い直す姿勢である。この作業は容易ではない。なぜなら、⑤常識を疑うという行為そのものが、その常識を支えてきた共同体の内部では、しばしば「常識外れ」として否定的に評価されてしまうからである。常識に疑問を持つ者は、時に共同体から反発を受け、孤立を強いられることさえある。
しかし、歴史を振り返れば、⑥かつての常識が後の時代には非常識として退けられた例は数多く存在する。かつて天動説が疑いのない事実とされていたように、ある時代の常識は、後の時代の視点から見れば誤りであったと判明することがある。⑦このことは、現在私たちが疑いなく受け入れている常識もまた、未来の視点からは誤りとして退けられる可能性を示している。
だからこそ、私たちに求められているのは、常識そのものを否定し、すべてを疑ってかかるという態度ではない。⑧常識を暫定的な足場として利用しながらも、それに絶対的な価値を与えず、必要に応じて更新していく柔軟さを持つことである。常識は、思考を進めるための出発点として一定の役割を果たすが、それを最終的な到達点だと思い込んでしまうところに、多くの誤解や対立の種が生まれる。
⑨自分の常識を相対化する視点を持つことは、他者との対話を可能にする第一歩となる。相手の常識を頭から否定するのではなく、それがどのような文脈のなかで形成されてきたのかを想像してみることで、対立の芽を摘むことができるかもしれない。⑩常識という言葉の重みに気づき、それを一度手放して考え直す勇気こそが、これからの多様な社会を生きるために不可欠な知的態度なのである。
第1問
傍線部①「常識とは、特定の共同体のなかでのみ有効な、いわば『内輪の約束事』にすぎないのである」とはどういうことか、説明しなさい。
第2問
傍線部②「当事者たちは、自分たちの常識がなぜそのように成立したのかを、ふだんはほとんど意識していない」のはなぜか、理由を説明しなさい。
第3問
傍線部③「しばしば無意識のうちに他者を排除する暴力性を帯びてしまう」とはどういうことか、説明しなさい。
第4問
傍線部④「むしろ必要なのは……問い直す姿勢である」とあるが、これはどのような姿勢のことか、説明しなさい。
第5問
傍線部⑤「常識を疑うという行為そのものが……否定的に評価されてしまう」のはなぜか、理由を説明しなさい。
第6問
傍線部⑥「かつての常識が後の時代には非常識として退けられた例」として、本文で挙げられている具体例を答えなさい。
第7問
傍線部⑦「このこと」とは、どのようなことを指しているか、説明しなさい。
第8問
傍線部⑧「常識を暫定的な足場として利用しながらも……柔軟さを持つこと」とはどういうことか、説明しなさい。
第9問
傍線部⑨「自分の常識を相対化する視点を持つこと」とはどういうことか、説明しなさい。
第10問
傍線部⑩「常識という言葉の重みに気づき……不可欠な知的態度なのである」とあるが、筆者が最終的に主張したいことをまとめて説明しなさい。
解答・解説
第1問の解答と解説
解答:常識とは、普遍的で絶対的な真理ではなく、ある特定の集団の内部でのみ通用する、その集団に限定された取り決めにすぎないということ。
「内輪の約束事」という比喩は、常識が全人類・全社会に共通する真理ではなく、限定された範囲でしか成立しないものであることを示しています。直前の「ある集団の内部では自明とされる規範や知識が、別の集団に足を踏み入れた瞬間に、まったく通用しないものへと変わってしまう」という具体例が根拠になります。ここを見落として「常識は正しいとは限らない」という一般論だけで答えてしまうと、「特定の共同体でのみ有効」という限定の要素が抜けて減点対象になります。比喩表現は必ず本文の具体的な内容に開いて説明する、という基本を忠実に守りましょう。
第2問の解答と解説
解答:常識は、その共同体の内部にいる者にとってはあまりに自然なものとして受け止められているため、あらためて根拠を問われることがないから。
理由説明の問題は、傍線部の直後にある「常識とは……あらためて根拠を問われることがないのである」という一文がそのまま根拠になっています。ここでは職場の遅刻の例が「たとえば」で挙げられていますが、これは理由そのものではなく理由を裏づける具体例なので、答えの中心に据えないよう注意が必要です。理由説明では、抽象的な一般論の部分(自然なものとして受け止められる、という部分)を答えの核にすることがポイントです。
第3問の解答と解説
解答:自分の常識を唯一絶対の正しさであるかのように扱い、それを他者に一方的に押しつけることで、自分とは異なる常識を持つ人を、意図せずに見下し、否定してしまうこと。
直前の「自分の常識を絶対的な真理であるかのように扱い、他者に押しつけようとする態度」が「暴力性」の内容そのものです。直後の「そんなことも知らないのか」という例は、この暴力性が具体的にどう現れるかを示す補足なので、そのまま丸ごと答えに使うのではなく、一般化した形で説明する必要があります。「無意識のうちに」という言葉も落とさずに含めることで、悪意がなくても起こる問題であることを示せます。
第4問の解答と解説
解答:自分が当然だと思っていることの背景に、特定の集団や時代に特有の事情が隠れているかもしれないと考え、いったん立ち止まって、その根拠を確認しようとする姿勢。
この設問は傍線部そのものが説明の対象であり、傍線部内の言葉をほぼそのまま用いて整理し直すだけで正解に近づきます。「むしろ」という語に注目すると、前段落の「他者に押しつける態度」との対比構造が見えてきます。つまり、押しつける態度の反対にあるのが、この「問い直す姿勢」だと理解すると、より正確な答案になります。単に「疑うこと」とだけ書くと、「特定の集団や時代に固有の事情」という具体的な視点が抜けてしまうので注意しましょう。
第5問の解答と解説
解答:常識を疑う行為は、その常識によって成り立っている共同体の内部の秩序や自明性を揺るがすことになるため、共同体側から「常識外れ」として否定的に受け止められてしまうから。
直後の一文「常識に疑問を持つ者は、時に共同体から反発を受け、孤立を強いられることさえある」が、この理由をさらに補強する具体例になっています。ここで気をつけたいのは、「なぜ問い直す作業は容易ではないのか」という前段落からの問いに答える形になっている点です。単に「否定的に評価されるから」と傍線部を繰り返すだけでは説明になっていないため、「なぜ否定的に評価されるのか」という一段深い理由(共同体の自明性を揺るがすため)まで踏み込む必要があります。
第6問の解答と解説
解答:天動説が、かつては疑いのない事実として広く信じられていたが、後の時代には誤りとして退けられた例。
この問題は具体例を問うものなので、本文中に明示されている「天動説」という語をそのまま答えに用いる必要があります。抽象的な言い換え(「昔正しいとされていたことが後に間違いだと分かった例」など)だけでは、本文にある具体的な事例を答えていないため不十分です。設問文に「具体的に」という指示がある場合は、必ず本文中の固有名詞や具体的事象を答案に含めましょう。
第7問の解答と解説
解答:ある時代には疑いなく正しいとされていた常識が、後の時代の視点から見れば誤りだったと判明することがあるということ。
指示語問題は、指示語の直前の内容を確認するのが基本です。「このこと」は、直前の一文「ある時代の常識は、後の時代の視点から見れば誤りであったと判明することがある」全体を受けています。天動説という具体例だけを指すのではなく、それが示す一般的な原理(時代によって常識の正誤が変わりうること)まで含めて答える必要がある点に注意しましょう。指示語の指す範囲を一文だけに限定せず、その一文が述べている内容の本質まで踏み込んで説明することが高得点のポイントです。
第8問の解答と解説
解答:常識を、考えを進めていくための一時的な出発点として役立てる一方で、それを最終的で絶対に変わらない正しさだとは思わず、状況に応じて見直し、改めていくという態度を持つこと。
この段落の最後の一文「常識は……最終的な到達点だと思い込んでしまうところに、多くの誤解や対立の種が生まれる」が、傍線部を裏側から説明する重要な根拠になっています。「暫定的な足場」という比喩は「一時的な出発点」、「絶対的な価値を与えず」は「最終的な到達点だと思い込まない」と対応させて言い換えることが求められます。比喩を比喩のままにせず、必ず具体的な言葉に開いて説明する練習として最適な一問です。
第9問の解答と解説
解答:自分の常識を唯一絶対のものとしてではなく、数多くある常識の中の一つにすぎないと位置づけ、他者の常識と比較して捉え直すこと。
「相対化」という抽象語は、そのまま答案に使うだけでは説明になりません。直後の「相手の常識を頭から否定するのではなく、それがどのような文脈のなかで形成されてきたのかを想像してみる」という部分が、相対化の具体的な内容を示しています。この一文を参考にして、「自分の常識を唯一のものと思わず、他者の常識と比較の対象として位置づける」という趣旨に言い換えることがポイントです。抽象語の説明問題では、必ず後続の具体的な記述を探して言い換えの材料にしましょう。
第10問の解答と解説
解答:常識は絶対的な真理ではなく、特定の共同体や時代に限定された一時的なものにすぎないと理解し、それを固定的な正しさとして押しつけたり信じ込んだりせず、必要に応じて見直し続ける態度こそが、多様な人々が共に生きていく社会を築くために欠かせない、というのが筆者の主張である。
最終問題は文章全体の要旨をまとめる問題です。第1問から第9問までの解答の要素(常識の限定性、無自覚性、押しつけの暴力性、問い直す姿勢、疑うことへの反発、時代による変化、暫定性、相対化)を統合して答案を作る必要があります。一部分だけを切り取って「常識を疑うことが大切だ」とまとめてしまうと、「すべてを疑ってかかるという態度ではない」と本文で明確に否定されている立場と混同してしまうため誤りになります。全文の論理展開を踏まえ、筆者が最終的にどの立場にも偏らない柔軟
な態度を主張しているかを正確に押さえることが、要旨記述問題では最も重要です。文章全体の要旨をまとめる問題では、途中の段落の一部だけに引きずられず、「筆者が最後に何を言いたいのか」という結論部分を軸にして、そこに至るまでの論理の骨組みを圧縮していく意識を持ちましょう。
藤原&翔先生のワンポイント
翔先生:今回の10問を通して、傍線部説明問題には大きく分けて「言い換え型」「理由説明型」「指示語型」「要旨把握型」の4パターンがあることが見えてきたと思います。
藤原:その通りです。第1問・第3問・第8問・第9問は比喩や抽象語を具体的に開き直す「言い換え型」、第2問・第5問は「なぜそうなるのか」を前後の文脈から探る「理由説明型」、第7問は指示語が指す範囲を正確に確定する「指示語型」、第10問は文章全体を圧縮してまとめる「要旨把握型」でしたね。
翔先生:共通して大事なのは、傍線部だけを見て答えを作らないこと。必ず直前・直後の一文、そして段落全体の論理関係を確認してから答案を組み立てる、という手順を毎回徹底することです。
藤原:また、比喩表現が出てきたら「この比喩は何を指しているのか」を必ず自分の言葉で確認する癖をつけてください。「内輪の約束事」「足場」といった比喩は、そのまま答案に残すと減点対象になることが多いです。
翔先生:逆に、具体例(天動説の話や職場の遅刻の話)は、それ自体が答えなのか、それとも一般論を裏づける補足なのかを見極めることも重要でしたね。設問文に「具体的に」とあるかどうかを必ずチェックしましょう。
藤原:最後に、要旨をまとめる問題では、途中の一つの段落だけに引きずられて結論を誤解しないよう、文章全体の「だからこそ」「しかし」といった逆接・結論のサインを見逃さないことが得点の分かれ目になります。
まとめ・日本国語塾TOPについて
今回は、一つの評論文の中に10か所の傍線を設定し、言い換え型・理由説明型・指示語型・要旨把握型という異なるタイプの設問を通して、傍線部説明の総合力を鍛える問題を用意しました。傍線部説明は、本文の言葉を根拠にしながら、抽象的な表現や比喩を具体的な言葉に開き直す作業の積み重ねです。一問ずつの答え合わせで終わらせず、なぜその根拠を選んだのか、他の部分ではなぜ根拠にならないのかまで振り返ることで、確実に得点力が伸びていきます。
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