はじめに
数強塾グループの国語専門塾、日本国語塾TOPの藤原進之介です。講師の翔先生と一緒に解説します!
藤原:翔先生、心情読解の第2回ですね。前回は基本の型を扱いましたが、今回はどこを重点的に見ていきますか?
翔先生:今回は「行動・表情・情景描写から心情を読み取る」ことに絞りました。小説では心情がそのまま書かれないことが多く、「声がかすれた」「視線をそらした」「窓の外を見た」といった動作や情景の中に気持ちが隠されています。この“隠れた心情”を根拠を持って言葉にできるかがポイントです。
藤原:特に難関校では「なぜその行動をとったのか」を選ばせる問題が頻出です。感覚だけで選ぶと必ず落とし穴にはまるので、本文中の言葉を根拠に選ぶ練習をしていきましょう。
今回は5つの短い場面(オリジナル小説)を用意し、それぞれ2問、合計10問で心情とその根拠を問います。じっくり本文を読んでから取り組んでください。
問題(全10問)
第1問
体育館の隅で、久保田は畳んだユニフォームをじっと見つめていた。三年間、汗を吸い続けたそのユニフォームを、来月から後輩の手に渡すことになる。①「頑張れよ」と声をかけたつもりが、思ったよりかすれた声になった。後輩の新人が「はい、頑張ります」と深く頭を下げたとき、久保田は②窓の外に視線をそらし、しばらく黄色く染まった銀杏の葉を見ていた。
問:傍線部①「かすれた声になった」ときの久保田の心情として最も適切なものを選べ。
ア.後輩に負けたくないという悔しさ
イ.三年間の努力が終わることへの寂しさと後輩への期待が入り混じった気持ち
ウ.声をかけるのが恥ずかしいという気持ち
エ.後輩の態度に不満を感じている気持ち
第2問
(本文は第1問と同じ)
問:傍線部②「窓の外に視線をそらし」た理由として最も適切なものを選べ。
ア.銀杏の葉の美しさに気づいたから
イ.後輩の深いお辞儀に気恥ずかしさを感じたから
ウ.こみ上げる感情を後輩に見せたくなかったから
エ.次の予定を思い出したから
第3問
祖母の家に着くと、縁側にはいつもの座布団がぽつんと置かれていた。祖母が座っていた場所だ。①母は座布団を手に取り、丁寧に叩いてから縁側の隅にしまった。私は何も言わず、その様子をただ見ていた。夕方、庭の柿の実が一つ、静かに地面に落ちた。②その音に、思わず肩が震えた。
問:傍線部①の母の行動から読み取れる心情として最も適切なものを選べ。
ア.座布団が汚れていることへの不満
イ.祖母への深い思いを込めた、名残を惜しむ丁寧な扱い
ウ.早く片付けを済ませたいという焦り
エ.座布団を処分するための準備
第4問
(本文は第3問と同じ)
問:傍線部②「肩が震えた」理由として最も適切なものを選べ。
ア.音に驚いただけで特別な感情はない
イ.祖母がいない寂しさが、ふとした音によって強く意識されたから
ウ.柿が傷んでいたことへの落胆
エ.母に対する怒り
第5問
転校生の佐伯さんは、教室の後ろの席にそっと腰を下ろした。誰も声をかけない。休み時間、私は思い切って隣に立ち、「よかったら、一緒にお昼食べない?」と声をかけた。①佐伯さんは驚いたように顔を上げ、それから小さく笑った。「うん、ありがとう」と答える声は、②少し震えていた。
問:傍線部①「驚いたように顔を上げ、それから小さく笑った」ときの佐伯さんの心情として最も適切なものを選べ。
ア.声をかけられたことへの警戒
イ.思いがけない優しさに触れた安心と嬉しさ
ウ.早く帰りたいという気持ち
エ.誘いを断ろうとする戸惑い
第6問
(本文は第5問と同じ)
問:傍線部②「少し震えていた」理由として最も適切なものを選べ。
ア.風邪をひいていたから
イ.単なる緊張であり感情とは無関係
ウ.新しい環境への不安の中で受け入れられた安堵と喜びが同時にあふれたから
エ.早口で話そうとしたから
第7問
決勝で一点差で敗れた瞬間、キャプテンの村上は膝から崩れ落ちた。ベンチから飛び出してきた副部長の田中が、①何も言わずに村上の背中に手を置いた。村上は顔を上げず、ただ肩を大きく揺らしていた。②「来年、絶対に取り返そう」田中の声に、村上はようやく小さくうなずいた。
問:傍線部①の田中の行動から読み取れる心情として最も適切なものを選べ。
ア.励ましたいが言葉が見つからず、寄り添う気持ちを行動で示した
イ.村上に注意をしたい気持ち
ウ.早く立ち上がらせたいという焦り
エ.自分の悔しさを紛らわせるための行動
第8問
(本文は第7問と同じ)
問:傍線部②の言葉を受けて村上が「小さくうなずいた」ときの心情として最も適切なものを選べ。
ア.田中の言葉に反発している
イ.悔しさを抱えながらも前を向く決意を固めつつある
ウ.田中の言葉を聞いていなかった
エ.すぐに忘れようとしている
第9問
父が亡くなって三年が経った。母の部屋の引き出しから、父が書いたらしい古い手帳が出てきた。①ページをめくると、家族旅行の予定や、私の誕生日にケーキを買うという小さなメモが並んでいた。私はしばらく手帳を閉じられなかった。②窓の外はもう暗く、街灯がぽつりぽつりと灯り始めていた。
問:「私」が手帳を閉じられなかった理由として最も適切なものを選べ。
ア.手帳の内容が難しくて理解できなかったから
イ.父の日常的な愛情の記録に触れ、亡き父を身近に感じて胸がいっぱいになったから
ウ.手帳を早く母に返さなければと焦っていたから
エ.手帳の字が読みにくかったから
第10問
(本文は第9問と同じ)
問:傍線部②の情景描写が表す効果として最も適切なものを選べ。
ア.単なる時間経過の説明
イ.「私」の切ない心情と重なり、静かな余韻を強める効果
ウ.物語の場面転換を示すだけの記号
エ.天気の変化を伝えるためだけの描写
解答・解説
第1問の解答と解説
解答:イ
久保田は三年間ユニフォームを着てきた当事者であり、その終わりを目前にしています。「頑張れよ」という言葉自体は後輩への前向きな声かけですが、声がかすれたのは単なる励ましだけでは説明できません。三年間の思いが終わる寂しさと、後輩への期待という二つの感情が同時に押し寄せたために、声がうまく出なかったと考えるのが自然です。アやエのように「不満」「悔しさ」と読むのは本文に根拠がなく、ウの「恥ずかしさ」だけでは寂しさの部分を説明できません。心情語が直接書かれていない場面では、状況(引退・世代交代)を必ず根拠に加えることが大切です。
第2問の解答と解説
解答:ウ
後輩が深く頭を下げた直後、久保田は窓の外を見ています。これは第1問で読み取った「寂しさと期待の入り混じった感情」がこみ上げてきたため、それを表に出さないよう視線をそらしたと考えられます。アの「葉の美しさ」やエの「予定を思い出した」は本文の流れと無関係で、時間的にも不自然です。イの「気恥ずかしさ」は方向としては近いものの、感情の強さを説明しきれず、ウの「感情を見せたくない」がより文脈に合致します。行動の直前に何が起きたかを必ず確認することが読解のコツです。
第3問の解答と解説
解答:イ
「丁寧に叩いてから」という描写がポイントです。もし単なる片付けなら、丁寧さを描く必要はありません。祖母が座っていた場所・物であることが直前に説明されているため、この丁寧な扱いには祖母への思いが込められていると読み取れます。アやウ、エのように否定的・機械的な動機と読むのは、「丁寧に」という語と矛盾するため誤りです。動作の速さや丁寧さといった描写の“程度”に注目すると、心情の強さが見えてきます。
第4問の解答と解説
解答:イ
柿の実が落ちる音自体は日常的な出来事ですが、祖母の家という文脈と直前の座布団の場面があるため、この音が「私」に祖母の不在を強く意識させたと考えられます。アのように「特別な感情はない」とするのは、直後に「肩が震えた」という反応があることと矛盾します。ウやエは本文に根拠がなく、感情の対象を取り違えています。何気ない情景の中に心情が重ねられるのは小説の典型的な手法なので、覚えておきましょう。
第5問の解答と解説
解答:イ
誰も声をかけない状況の中で、初めて話しかけられたことへの驚きと、それに続く「小さく笑った」という表情から、警戒よりも安心・嬉しさが強いと判断できます。アやエのように否定的に読むと、直後の「うん、ありがとう」という肯定的な返答と矛盾します。ウは本文に描かれていない飛躍した解釈です。表情の変化(驚き→笑顔)の順序を丁寧に追うことが正解を絞る鍵になります。
第6問の解答と解説
解答:ウ
転校生という設定から、新しい環境への不安が背景にあることは容易に読み取れます。そこに思いがけない優しさを受け、安堵と喜びが同時にあふれたために声が震えたと考えるのが最も自然です。アのように身体的な理由に限定するのは本文の流れを無視しており、イのように感情と無関係とするのは「小さく笑った」との整合性が取れません。エも本文にない根拠のない解釈です。震え・涙・笑いなどの反応は、多くの場合複数の感情が同時に生じたときに描かれる点を意識しましょう。
第7問の解答と解説
解答:ア
「何も言わずに」という描写が重要です。これは言葉が見つからないほど心が動いていること、そしてそれでも寄り添おうとする気持ちを表しています。イやエのように否定的・自己中心的な動機と読むのは本文の温かい雰囲気と矛盾します。ウの「早く立ち上がらせたい」という焦りも、次の田中のセリフ(前向きな励まし)と結びつかず不自然です。無言の行動には強い感情が込められていることが多く、あえてセリフがない場面ほど心情を丁寧に想像する必要があります。
第8問の解答と解説
解答:イ
村上は「顔を上げず、肩を大きく揺らしていた」ことから強い悔しさを抱えていることが分かります。そのうえで田中の前向きな言葉に「小さくうなずいた」という反応を示しているため、悔しさが消えたわけではなく、それを抱えたまま少しずつ前を向こうとする気持ちが読み取れます。アのように「反発」と読むと、うなずくという行動と矛盾します。ウやエのように「聞いていなかった」「忘れようとしている」という解釈は本文に根拠がなく、うなずいた事実を軽視しています。悔しさと前向きさは対立するものではなく、同時に存在しうる感情である点を押さえておきましょう。
第9問の解答と解説
解答:イ
手帳に書かれているのは「家族旅行の予定」や「誕生日にケーキを買う」といった、ごく日常的で小さな愛情の記録です。特別な言葉ではないからこそ、父が普段からどれだけ家族を思っていたかがリアルに伝わり、亡き父を身近に感じて胸がいっぱいになったと考えられます。アやエのように「理解できない」「読みにくい」と読むのは、内容がきちんと紹介されている本文と矛盾します。ウの「焦り」も本文の静かなトーンに合いません。地味で具体的な描写ほど、実は強い感情の根拠になっていることが多いという点は、記述問題でも頻出のポイントです。
第10問の解答と解説
解答:イ
「窓の外はもう暗く、街灯がぽつりぽつりと灯り始めていた」という一文は、直前の「手帳を閉じられなかった」という「私」の心情の余韻として置かれています。単なる時間経過の説明であれば、わざわざ情感的な描写にする必要はありません。ア・ウ・エのように機械的・事務的な役割だけと読むと、小説特有の情景と心情を重ねる表現技法を見落としてしまいます。物語の最後に情景描写が置かれるときは、多くの場合その直前の心情を象徴的に引き延ばす役割を持つことを覚えておきましょう。
藤原&翔先生のワンポイント
翔先生:今回の10問を通して感じてほしいのは、「心情語(悲しい・嬉しいなど)がなくても、行動・表情・情景から心情は読み取れる」ということです。特に「声がかすれる」「視線をそらす」「肩が震える」「何も言わない」といった動作は、感情がそのまま言葉にできないほど強いときに描かれる典型的な表現です。
藤原:大事なのは「なんとなくこう感じそう」で選ばないことです。必ず本文中の直前・直後の一文に根拠を求める習慣をつけてください。今回の解説でも、正解の根拠は必ず傍線部の前後数行にありました。逆に、誤答の選択肢は本文に書かれていないことを勝手に付け加えているものがほとんどです。
翔先生:もう一つは「情景描写=心情の鏡」という考え方です。天気・時間帯・自然物(葉・柿・街灯など)は、多くの場合登場人物の気持ちを映す装置として使われます。情景描写が出てきたら、「これは誰の、どんな気持ちを表しているか」を必ず考える癖をつけましょう。
まとめ・日本国語塾TOPについて
今回は「行動・表情・情景から心情を読み取る」練習として、5つの短いオリジナル小説と10問の一問一答を用意しました。心情読解でつまずきやすいのは、感覚で答えを選んでしまい、本文中の根拠を確認しないことです。今回のように「なぜその行動をとったのか」「その情景描写は何を表しているのか」を一つひとつ丁寧に言語化する練習を積み重ねることで、記述問題にも対応できる読解力が身についていきます。次回の第3回では、さらに複雑な心情の変化(心情の推移)を扱う問題に挑戦していきますので、ぜひ楽しみにしていてください。
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