はじめに
数強塾グループの国語専門塾、日本国語塾TOPの藤原進之介です。講師の翔先生と一緒に解説します!
今回のテーマは、現代文の入試で最頻出といっても過言ではない「言語と思考」です。東京大学・京都大学・早稲田大学・慶應義塾大学をはじめ、難関大学の現代文では、この分野から毎年のように出題されています。
「ソシュールって名前は聞いたことあるけど、何を言っているか全然わからない」「丸山圭三郎の文章を読んでも意味不明」——塾の現場でこういった声を毎年たくさんいただきます。翔先生も最初に担当した受験生がソシュール関連の問題でボロボロになっているのを見て、「これは徹底的に教えなければ」と感じたと言っていました。
安心してください。この記事を読み終えるころには、言語と思考の関係、ソシュールの記号論、丸山圭三郎の議論がスッキリ整理され、入試問題に自信を持って向き合えるようになります。3500字超の完全攻略ガイドをぜひ最後まで読んでください。
核心情報・基礎知識|「言語と思考」とは何か
なぜ「言語と思考」が現代文で頻出なのか
現代文の出題者は、受験生が「深く考える力」を持っているかを試したいと考えています。「言語と思考」というテーマは、「私たちは言語なしに考えられるのか?」「言語が違えば世界の見え方も変わるのか?」という、人間の知的営みの根幹に関わる問いです。
このテーマが頻出である理由は主に3つあります。
- 哲学・言語学・認知科学にまたがる学際的なテーマであり、出題者が好むタイプの「高度な抽象性」を持つ
- 受験生が「なんとなく知っている」ようで、実は深く理解していない盲点になりやすい
- ソシュール・丸山圭三郎・池上嘉彦・今井むつみなど、評論の定番著者がこのテーマを扱っており、教材が豊富
まず押さえるべき基本的な問い
「言語と思考」を考えるとき、出発点となる問いはシンプルです。
「私たちは言語を使って思考しているのか、それとも思考した結果を言語に変換しているだけなのか?」
日常感覚では「まず頭の中で考えて、それを言葉にする」と思いがちです。しかし、言語学・認知科学の最前線では、「言語そのものが思考を形づくっている」という見解が有力です。この逆転の発想こそが、現代文の評論で繰り返し問われるポイントです。
具体的な解説|ソシュール・丸山圭三郎を完全攻略
① ソシュールの言語学:「シニフィアン」と「シニフィエ」
フェルディナン・ド・ソシュール(1857〜1913)はスイスの言語学者で、「近代言語学の父」と呼ばれます。彼の思想の核心は、言語記号の恣意性(アルビトレール)にあります。
ソシュールは言語記号を次の2つの面から分析しました。
- シニフィアン(signifiant):能記・記号表現——音のイメージ、つまり「犬」という音の連なり
- シニフィエ(signifié):所記・記号内容——概念、つまり「犬」という言葉が指し示す動物の概念
ここで最重要なのが「恣意性」という概念です。「犬」という音(シニフィアン)と、犬という概念(シニフィエ)の結びつきは、自然の必然性を持たないということです。英語では”dog”、フランス語では”chien”と呼ばれます。どの音を使うかは社会的・慣習的に決まっているだけで、「本来こうでなければならない」理由はない。
ここまでは「ふーん、言葉は恣意的なんだ」で終わってしまう人が多いのですが、現代文で重要なのはその先の含意です。
「概念(シニフィエ)もまた、言語によって切り分けられて初めて存在する」——これがソシュールの革命的な主張です。
例を挙げましょう。日本語には「青」と「緑」という2つの言葉がありますが、信号の「進め」を日本人は「青信号」と呼びます。あれは客観的には緑色に近い。つまり、日本語という言語体系が「青」という概念の領域を広く設定しているのです。一方、色の切り分け方は言語によって異なります。世界(現実)が先にあって言語がそれを名指すのではなく、言語が世界を分節(切り分け)することで、初めて概念が生まれる——これがソシュール言語学の核心です。
入試頻出キーワードまとめ:
- 記号の恣意性:シニフィアンとシニフィエの結びつきに必然性はない
- 分節(ランガージュ):言語が連続した世界を切り分けて概念を生む
- ラング/パロール:社会的な言語体系(ラング)と個人の言語使用(パロール)の区別
- 差異の体系:言語の意味は他の記号との差異によって生じる(「犬」は「猫」「鳥」でないから「犬」)
② 丸山圭三郎の貢献:「言語と思考」への展開
丸山圭三郎(1933〜1993)は、ソシュール言語学を日本に深く紹介・発展させた思想家です。代表作『言葉と無意識』『文化記号論』などは入試頻出の評論素材となっています。
丸山が強調したのは、ソシュールの「分節」概念をさらに押し広げ、「人間は言語によって世界を認識している」という主張です。
丸山の言葉を借りれば、「言語は世界を反映する鏡ではなく、世界を創り出すレンズである」といえます。私たちは「客観的な世界」をそのまま認識しているのではなく、自分が使っている言語の枠組みを通じて世界を知覚・思考している。
具体例で考えてみましょう。日本語には「木漏れ日」という言葉があります。木の葉の間から差し込む光のことですが、英語にはこれにぴったり対応する単語がありません。英語話者にとって、その現象は「木漏れ日」という1つの統一された概念として存在しにくい。逆に、英語には日本語で1語に訳しにくい感情表現が多数あります(”wistful”や”serendipity”など)。
言語が違えば、世界の切り分け方も違い、思考の枠組みも変わる——これが丸山が体系化した「言語と思考」の核心です。
丸山が特に重視したキーワード:
- シニフィアンの優位:言葉の音・形が思考に先行する側面
- 前言語的経験と言語化:言語化される前の漠然とした経験が、言葉を得ることで初めて明確な意味を持つ
- 「ズレ」の創造性:完全に一致しない翻訳のズレが、新しい概念を生み出す可能性
③ 「言語と思考」をめぐる他の重要概念
入試では、ソシュール・丸山圭三郎以外にも関連する概念が登場します。代表的なものを整理しておきましょう。
ウォーフ=サピア仮説(言語相対性仮説)
「人間の思考や世界認識は、その人が使う言語によって決定・制約される」という仮説です。強い形(言語決定論)は現在では否定されていますが、「言語が思考に一定の影響を与える」という弱い形は広く認められています。現代文の評論でも、この議論の枠組みで論じられることが多い。
メタファー(隠喩)の認知的機能(レイコフ&ジョンソン)
「議論は戦争だ」(Argument is war)のように、私たちは抽象的な概念を別の具体的な概念のメタファーで理解しています。これは「言語が思考を構造化している」証拠として現代文でも引用されます。
内言(ヴィゴツキー)
頭の中でぼんやりと行われる「内なる言葉」による思考。言語と思考が融合した形態として、現代文の心理学系評論で登場します。
④ 入試問題での典型的な出題パターン
「言語と思考」テーマの入試問題には、典型的な問われ方があります。翔先生が過去問を100問以上分析した結果、次のパターンに集約されます。
- パターン①:傍線部の言い換え問題——「恣意性」「分節」「差異の体系」などの専門用語の意味を、文脈に即して説明させる
- パターン②:筆者の主張の整理——「言語が思考に先行する」という主張の根拠を本文から抽出させる
- パターン③:具体例の補充・説明——「木漏れ日」「青と緑」のような具体例が何を示しているか説明させる
- パターン④:対比構造の把握——「一般的な言語観(道具観)」vs「ソシュール的言語観(構成論)」の対比を整理させる
藤原&翔先生の実践アドバイス
藤原進之介からのアドバイス
私が受験生に必ず伝えることがあります。それは「現代文の評論は、筆者が何に反論しているかを先に把握せよ」ということです。
「言語と思考」テーマの評論文では、筆者(ソシュール的視点を持つ著者)は必ず「言語道具観」に反論しています。言語道具観とは「思考が先にあって、言語はそれを表現する道具に過ぎない」という常識的な見方です。
この「常識(言語道具観)→批判・反論→新しい主張(言語構成論)」という論の展開構造を先に頭に入れておけば、初見の評論文でも「ああ、またこのパターンだ」と落ち着いて読めます。背景知識が読解速度と精度を劇的に上げる——これが私の確信です。
翔先生からのアドバイス
生徒に教えていてよく気づくのが、「ソシュールの名前は知っているけど、具体例で説明できない」という状態です。入試では抽象概念を自分の言葉で説明する力が問われます。
私がおすすめする練習法は「1概念・1具体例ノート」を作ることです。「恣意性→英語のdogと日本語の犬は音が違うが同じ概念を指す」「分節→日本語の青と緑は英語と違う範囲で世界を切り分ける」というように、概念と具体例をセットで覚える。これをやった生徒は、記述問題でも説得力のある答案が書けるようになります。
また、丸山圭三郎の文章は難解に見えますが、「言語は鏡ではなくレンズ」というメタファーを頭に置いておくと、論旨が追いやすくなります。ぜひ試してみてください。
よくある疑問・失敗パターンと解決策
❌ 失敗パターン①:「ソシュールは言語が大事と言っている」だけで止まる
解決策:「言語が大事」ではなく、「言語が思考・認識・概念を構成する」という能動的・構成的な役割まで踏み込んで理解しましょう。「道具」と「構成要素」の違いを常に意識すること。
❌ 失敗パターン②:シニフィアン・シニフィエを「音と意味」で止めて終わり
解決策:「音と意味の結びつきが恣意的(必然性がない)」「意味(シニフィエ)自体が言語によって切り分けられる」という2段階の理解が必要です。2段目まで理解できている受験生は少ないので、ここで差がつきます。
❌ 失敗パターン③:丸山圭三郎を「ソシュールの解説者」としか理解しない
解決策:丸山は「前言語的経験の言語化」「文化と言語の相互構成」など、ソシュールを超えた独自の議論を展開しています。入試では丸山独自の主張が問われることも多いので、「丸山ならではの視点」を意識して読みましょう。
❓ よくある質問:「言語と思考、どちらが先か」という問いへの答え方
入試の記述でこの問いが出たとき、「どちらが先か」という二択で答えようとするのは罠です。現代の言語学・認知科学の立場では「両者は相互構成的・弁証法的な関係にある」というのが正解に近い。「言語が思考を形づくる側面と、思考が言語を生み出す側面が、互いに影響し合っている」という方向で答えると高得点につながります。
今日からできるアクション・チェックリスト
以下のチェックリストで、自分の理解度を確認してみましょう。✅がつかない項目は本記事を読み返してください。
- ☐ シニフィアン・シニフィエの区別を自分の言葉で説明できる
- ☐ 記号の恣意性の意味と、それが「言語と思考」にとってなぜ重要かを説明できる
- ☐ 「分節」とは何か、「青と緑」などの具体例で説明できる
- ☐ 言語道具観と言語構成論の対比を整理できる
- ☐ 丸山圭三郎の「言語はレンズ」という主張の意味を説明できる
- ☐ ウォーフ=サピア仮説(言語相対性仮説)の概要を知っている
- ☐ 「1概念・1具体例ノート」を作り始めた
- ☐ 過去問で「言語と思考」テーマの評論を最低3題解いた
今日すぐできる3つのアクション:
- ノートを1ページ使って「ソシュールの言語学まとめ」を手書きで整理する(書くことで定着が3倍になります)
- 「木漏れ日」「木枯らし」など日本語にしかない言葉を5つ調べ、それぞれが「分節」の例としてどう説明できるか考える
- 丸山圭三郎『言葉と無意識』(講談社現代新書)の冒頭部分を読んでみる(読みやすく書かれており、入試対策に最適)
まとめ|日本国語塾トップについて
今回は現代文頻出テーマ「言語と思考」について、ソシュールの記号論から丸山圭三郎の言語論まで徹底解説しました。
重要ポイントを最終確認しましょう:
- ソシュール:記号の恣意性・シニフィアンとシニフィエ・分節・差異の体系
- 丸山圭三郎:言語はレンズ・前言語的経験の言語化・言語による世界構成
- 論の展開パターン:言語道具観への反論→言語構成論の提唱
- 具体例を常にセットで:「青と緑」「木漏れ日」などで抽象概念を血肉化する
「言語と思考」は難解に見えて、構造を理解すれば必ずスコアが上がるテーマです。背景知識を武器にして、自信を持って入試に臨んでください!
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